ここでは、実話に基づき社労士とある会社の社長とのやりとりを、会話形式で紹介します。
年度末に高倉社労士が田中社長のもとを訪れ、36協定(さぶろく協定、時間外労働 休日労働に関する労使協定)に関する従業員代表選出手続きと協定の締結手続きを行いました。
過去にも田中社長が36協定の手続きを実施していましたが、今回のような手順で行ったのは初めてです。さて、どのような違いがあったのか、早速見てみましょう。
田中社長
成田市で社員5名の会社を経営している。
今の体型からは想像できないが、学生時代にサッカーをやっていた。
高倉社労士からフットサルを誘われたが、即座に「無理」と断って
しまった。
高倉社労士
成田市で社会保険労務士をしている。
千葉県と成田市が大好き。
学生時代はサッカーのゴールキーパーをやっていた。
その時の名残りか、「会社を守れる社労士になる」が口ぐせ。
高倉:社長、こんばんは。社員の皆さんは仕事を中断できそうですか?
社長:たぶん大丈夫かな。その前にもう一度今日やることを説明してもらえるかな。
高倉:いいですよ。ご存じの部分もあるかもしれませんが、おさらいとして聞いてください。
まず、残業をさせる場合にはこれから行う36協定の締結を行い、監督署に届出る必要
があります。この協定は従業員代表者と会社の2者間で締結するものです。
よって手順としては、
① 代表者の選出
② 協定の締結
③ 監督署への提出
という流れになります。
社長:そうだよね。高倉さんに当社の顧問になってもらった時にも教えてもらったね。
高倉:そうでしたね。本来は1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えて労働させたり、
法定休日に(1週間に暦日で1回、または、4週間を通じ4日を下回って)労働させることは、
労働基準法違反とされていますが、36協定を締結して監督署に届出を行うことによって
労基法違反にならなくなります。
社長:残業が違法だなんて、知らなかったよ。若いころサラリーマンとして勤めていたときは、
そんなこと知らなかったしな。
高倉:私も同じですよ。社労士の勉強を始めてから知りました。
でも、最近は政府の方針として長時間労働を削減する流れになってきていますので、残業が
さほど多くない企業でも、労働時間に関してやるべきことはやっておきましょう。
社長:よし、ではみんなに声かけてくるから、待っていてください。
高倉:社長、お疲れさまでした。滞りなく手続きが終わりましたね。
社長:ありがとうございました。
こうして社員に趣旨を説明してから従業員代表を選ぶのが、正しいやり方なんだね。
高倉:そうですね。本来は「労働者の過半数を代表する者」との協定なので、全員でなくても
良いのですが、一部の人にしか説明しないのもおかしいですしね。
社長:前に話したけど、去年は私が指名した人に、サインしてもらっただけだったんだよね。
高倉:最近は、臨検調査の時に従業員代表の選出が適正になされているか、確認することも
あるみたいです。でも、これだけきちんとやっておけば大丈夫ですよ。
社長:これであとは、成田労働基準監督署に届出すれば終わりでしたっけ?
高倉:いえ、届出した際に監督署が印鑑を押してくれるので、それを会社の見やすい場所に
掲示するか、備え付けるなどして、社員に周知させるところまでやりましょう。
ちょうど休憩スペースのわきに就業規則の閲覧用があるので、一緒に綴じておくことを
みなさんに周知しておけば足ります。
社長:もし、うちの会社が支店を出した場合は、どうすれば良いのかな?
高倉:36協定は事業場ごとに締結・届出が必要なので、この本社と支店のそれぞれで手続きが
必要になりますね。
本社一括届出という方法もありますが、それぞれの過半数で組織する労働組合が同一で
あることなど、条件があります。
労働組合が無いので、それそれでやるしかないですね。
社長:そうか。まぁその時は手続きも増えるだろうから、また教えてくださいね。
高倉:わかりました。
ひとまず今日締結した36協定は、明日にでも成田労働基準監督署に届出しておきます。
帰りがけに会社控え分を持ってきますね。
36協定で一番問題になるのは、その時間数だと思います。
上記のやり取りの中では触れませんでしたが、36協定で延長できる時間数は決まっています。
一般の延長限度
1週間 | 15時間 |
2週間 | 27時間 |
4週間 | 43時間 |
1カ月 | 45時間 |
2カ月 | 81時間 |
3カ月 | 120時間 |
1年 | 360時間 |
1年単位の変形労働時間制の延長限度
1週間 | 14時間 |
2週間 | 25時間 |
4週間 | 40時間 |
1カ月 | 42時間 |
2カ月 | 75時間 |
3カ月 | 110時間 |
1年 | 320時間 |
特別の事情によりこの時間数を超えて労働させる必要がある場合は、特別条項を付けた上で36協定を締結することになります。ただし、毎月この時間数を超えられる訳ではなく、年6回までとなります。
また、特別条項を付けた場合の時間数の上限については、労使双方の自主的な協議による決定に委ねられているため、法令等の制限はありません。とは言っても、過重労働による健康障害の恐れも高まる為、上限時間数には注意が必要です。